ディレクターズ・ステートメント

私はボランティアとして牛久の東日本入国管理センターを訪れ、収容されている人たちの話を聞いて強い影響を受けました。そのとき、映画の力によって、この話を、日本の市民や世界に伝えることができないだろうかと考えるようになりました。

私の動機は、映画を作ることではありませんでした。人権侵害の目撃者として、拘束されている人々の証言を撮影することにより、証拠を残し、彼らの真実を記録しなければならないという義務を感じたのです。

先日、名古屋の入国管理センターに7カ月間収容されていたウィシュマ・サンダマリ・ラスナヤケさんが亡くなりました。過去15年間に17人の方が亡くなりました。日本の無期限収容で苦しむ人々の健康状態に、多くの支援者が、心配し続けてきました。

この映画に登場する参加者の家族の名前や国籍、日本で難民申請をした理由などはほとんど明らかにされていません。これは、彼らを可能な限り保護するためです。
参加者の方々は、その顔を隠すことなく、音声を変えることなく、ストーリーを共有することに同意してくださいました。リスクがあるにもかかわらず、彼らが信頼して自分の真実を語ってくださったことに、心より感謝いたします。 参加者の勇気ある行動が、この作品を観てくださる方々の心に訴え、御自身をも取り巻く不正義と、向き合うきっかけになることを祈っています。

——トーマス・アッシュ


2021年6月9日 映画『牛久』出演者の同意に関する声明

映画『牛久』を制作しましたトーマス・アッシュと申します。クリスチャンの友人とボランティア活動の一環として牛久入管で面会活動を2019年から始めました。面会を重ねるうちに、この現状を変えるにはどうしたらいいのか、自分にできることはなにか、考えるようになりました。そして、変化をもたらすためには、多くの人々がこの現実を知ることが必要だという思いに至り、ドキュメンタリーの制作を決意しました。

私個人やこのドキュメンタリーに対して、批判的な意見をお持ちの方がいらっしゃることについては、真摯に受け止めます。

しかし、5月11日『牛久』の予告篇が公開された後、5月20日にインターネット上で、「隠し撮り映像を同意なく公開した」。さらに、5月28日に「隠し撮り映像の使用について、一部の出演者は一度も同意していない」と、出演者Aさんの支援者から誤った情報が流されました。その誤った情報を、多くの人が信じてしまったために、この映画は大変困難な状況に置かれました。

今回、私はAさん本人からも彼の弁護士からも、映像の削除や『牛久』の上映中止を求める連絡は受けていません。私は、声を上げたい当事者たちの、その声を広げるために映画を作りました。直接会って話をし、Aさんを含め全出演者それぞれと映像を共に観て、何度も何度も同意を確認しました。その後も、映画の進展について報告し続け、公開に向かいました。

そうしたなか、Aさんが映画公開の6月1日、ホームページ上で、声明を出し、映画への出演に同意していることを、改めて表明してくれました。

経過は以下の通りです。

  • 4月29日 Aさんと私はこれまでも頻繁に連絡を取り合ってきたが、この日もAさんに、ポスターや予告編の出演部分の確認をした。Aさんはこれを、喜んでくれた。
  • 5月10日 予告編公開前日、Aさんに確認の連絡をした。
  • 5月11日 予告編公開後、連絡をし、Aさんは喜んでくれた。
  • 5月13日(昼)Aさんは私に「収容者がどういう状況におかれているのか、映画を通じて知らせたいという気持ちに変わりない」と、電話で話した。
  • 5月13日(夜)Aさんの支援者から「トーマスさんからの電話にはしばらく答えない方が安全だと、Aさんに伝えてある」とのメッセージを受け取った。そのメッセージを受け取って以降、私はAさんへの連絡を試み続けたが、今に至るまで、Aさんとは連絡が取れていない状態である。
  • 5月20日「隠し撮り映像を、同意なく公開した」という内容がネットに流れる。
  • 5月27日の世界同時配信試写会(オンライン)以降、「登場人物の一人の同意を得ないままに、世界同時配信が行われた」との見解が、ネット上に上がる。
  • 5月28日 「隠し撮り映像の使用について、一部の出演者は一度も同意していない」とAさんの支援者がネットに投稿。
  • 6月1日(映画公開の日)Aさん自身が、声明を出し、映画への出演に同意することを改めて表明された。

5月13日以降、Aさんと話をすることができていない私としては、Aさんがなぜ上記の表明をしてくれたのかは推測するしかないのですが、“Aさんが同意をしていないのに映画を公開した” という事実に反する評判が立ち、映画の公表に支障をきたしていることにAさんが心を痛め、上記の表明をしてくれたのではないかと思っています。

私はAさんが世間の注目を浴びて、ストレスを抱えることには、加担したくなかったので、今までこの問題について、言及することは控えてきました。
しかし、6月1日、Aさんが、出演に同意していることを表明してくれたので、私もこの問題について、ここで詳しく説明することができるようになりました。
今回の彼の表明により、この映画が「同意なく公開された」という情報が、真実に反していることが明らかになりました。また、そのなかで彼は「問題は、私と監督との間の問題であり、我々の間のプライベートな問題」があったとしています。私としては彼の感じたことに、向き合いたいと願っています。

『牛久』を多くの方に見ていただき、彼らのおかれている立場を知り、国連の基準に沿った出入国管理法等の整備へと向かっていくためにも、力を合わせる、今こそ、その時だと思います。
最後に、この大きな問題に対する、多くの方々の素晴らしい支援活動、制度への英知を結集した行動に敬意を表します。そして私は、Aさんはじめ現状の入管法によって苦しんでいる皆様のことを思い、祈り続けます。彼らの声が世界に届き、人権が守られる日本社会となるよう願っております。

Thomas Ash
2021.06.09